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ねこ と ごはん

【猫にかまけて】猫に学ぶ、人生のすすめ

おすすめ度★★★★★


あなたにとって猫とはどのような存在ですか?

そりゃあ、ペットでしょ?という方。
立派な家族の一員だよ!という方。
いつも側にいてくれる友人なんだ、という方。
人と猫との関係の数だけ、それぞれの想いがあることでしょう。

あとがきの中で作者はこう語っています。

どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、
彼女らはいつも洗練されたやりかたで、
人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。
(引用 猫にかまけて/町田康 )

猫と暮らすなかで彼らの言葉に耳を傾け、
彼らの生き方を尊重する。
猫に学ぶ作者の姿勢から、日々の暮らしを見つめなおす1冊です。

町田康とファンシーな猫たち

この本に登場する猫は4匹。
ココア、ゲンゾー、ヘッケ、奈奈です。
それぞれ個性の強い面々で、猫と作者の軽快な会話に思わずにやにや。
もちろん人間の言葉を話すわけではないんですが、
だいたいこんなことを言ってるだろう、という作者と猫たちのやり取りが愉快です。

その中からココアとゲンゾーをそれぞれ紹介します。



聡明でちょっと気難しいココア

雨が降ったら雨をやませろ、私が膝に乗りたいタイミングぐらいそろそろ覚えろ、
まだそんな原稿なんてもの書いているのか、などとなにかと文句をつけてきます。
反論しようとする作者ですがいつも言い負かされてしまうのです。

あるエピソードで、小洒落た部屋に模様替えした作者。
洋風に統一された部屋に満足する作者ですが、
ある朝、ココアが寒いから炬燵を出せ、と言う。

しかし自分は虚栄心に基づいて部屋を洋風にまとめているから炬燵は捨ててしまっている。
その旨を正直にココアに伝えると、ココアは真っ黒で真ん丸い目を見開いて
私の顔を穴の開くほどじっと見つめる。つまり、
「はっはーん。私は人間で言うともう百をとっくに越えているのだけれど
その私が寒いと言っているのにあなたは自分の見栄を優先して私に寒い思いをしろとこういうのね。
わかりました。虚栄心を優先させるのですね」
と言っているのである。
(引用 猫にかまけて/町田康 )

こうして人間の虚栄心のくだらなさを悟り、
炬燵を購入するめディスカウントストアに走る作者なのでした。
どんなに高級なソファだろうと、猫にはちょうどいい爪とぎ。
猫の前では、人間の見栄や世間体などちっぽけなものだと気づかされます。



犬猫、猫犬?猫らしくないゲンゾー

呼べば犬のように駆けてきて、近所の子どもに腹を見せてうひゃうひゃ喜ぶ犬のようなゲンゾー。
仕事中の作者にお構いなしで、はみゃはみゃ、ぐるぐるぐる、ぽっぽっぽっ、と鳴きながら
手に足に頭をこすりつけてくるといいます。

「えーやんけ。仕事ぐらい。まくれまくれ」
「けどこれ今日中にせぇへんかったら、俗にいう、落ちる、ちゅう事態になるで」
「別にかめへんのと違う」
「かめへんかな?」
「かめへん。かめへん。それにおまえ、そないして一生懸命仕事して僅かな銭稼ぐのとやで、
俺と一緒にぱあーっと遊びに行くのとどっちがおもろい。人として」
(引用 猫にかまけて/町田康 )

大人になると毎日がルーティン化し、日々を楽しむことを忘れてしまいがちです。
仕事?そんなことより、遊べ!と言ってくれる存在が周りにどれだけいることでしょう。
目をらんらんと輝かせおもちゃを追いかける姿。
午後の昼下がりのなか香箱をつくってまどろむ姿。
猫たちが人間の傍らで自由気ままに暮らしている姿に、
私たちは”遊ぶ”ことを、ちからの抜き方を、ふと思い出すのです。

その他にもたくさんのエピソードが収録されています。
なかでも、飼い主にとって一番つらい愛猫との別れの話は
涙なくしては読めません。むしろ涙で本が読めません。

生き物には、いつか必ず訪れる別れの瞬間があります。
また、その人生は飼い主に託されています。
避けられない”いつか”の為の覚悟と、
それまでどれだけ幸せにしてあげれるのか、
この2つは、いつも心にとめておくべきものだと考えさせられました。

猫を飼っている方にはもちろん、
生き物を飼っているすべての飼い主におすすめしたい作品です。


続刊